科学

蒸散(蒸散作用)

葉から水が水蒸気となって逃げていくことで、根の水をてっぺんまで吸い上げる「植物のストロー」です。

  • 約3分
  • 図 1点
  • 2026-10-12 検証

定義

植物が根から吸い上げた水分を、葉にある小さな穴から外へと逃がす現象のことです。水が水蒸気になって出ていくと、その隙間を埋めようと下の水が次々と引っ張り上げられます。この力のおかげで、背の高い木でもポンプなしで一番上まで水を届けることができるのです。

葉にある小さな空気の出入り口

葉を顕微鏡で大きく拡大してみると、表面に唇のような形をした小さな穴がびっしりと並んでいます。この穴を「気孔(きこう)」と呼びます。主に葉の裏側に多く集まっていて、とても小さいため肉眼では見えません。

気孔は、もともと空気を出し入れするための扉です。植物はこの扉から二酸化炭素を取り込んで、光合成によって栄養分を作ります。ところが、扉を開けると、植物の中のしっとりとした水分まで一緒に外へ逃げ出してしまいます。

このように、葉から水が水蒸気となって出ていく現象を蒸散(蒸散作用)と呼びます。洗濯物が乾くのと似ていますが、植物は気孔を開け閉めして出ていく水分の量を自分でコントロールできる点が大きく違います。

日差しが強く、風が吹き、空気が乾燥しているほど、水はより勢いよく逃げていきます。太陽の光が気孔を開かせて葉を温め、風が葉のまわりの湿った空気を払い、乾いた空気の中へと水蒸気が飛び出していくからです。逆に地面がカラカラに乾いているときは、植物は気孔を閉じて水分を節約します。大きな木になると、よく晴れた日にはバケツ何杯分もの水を一日のうちに外へ放出しているのです。

ポンプなしでてっぺんまで吸い上げる力

木のてっぺんにある葉から水滴がひとつ蒸発すると、そこにぽっかりと隙間ができます。すると、すぐ下にあった水がその隙間を埋めようと引っ張られて上がってきます。

水の分子同士は、まるで手をつなぎ合っているかのように強く引き合う性質を持っています。そのため、先頭のひとしずくが動くと、後ろに続く水柱全体がズルズルと連なって引き上げられます。根から葉まで一本につながった細い管(道管)の中で、この「水の綱」が途切れることなく保たれているのです。

つまり、葉が上からストローを力いっぱい吸っているような状態です。心臓のようなポンプがなくても、上から引っ張り上げる力だけで、水は何十メートルもの高さをものともせず登っていきます。

水を運ぶ道管が非常に細いことも大きな助けになっています。細い管の中では、水が自ら壁を伝ってよじ登ろうとする性質(毛細管現象)が働くからです。

もう少し詳しく:ただ水を捨てているわけではありません

外へ逃げていく水を見ると、なんだかもったいない無駄遣いのように思えるかもしれません。しかし、この水の流れは植物にとって命を支える重要な役割を果たしています。

まず、根が土から吸い上げた無機養分(ミネラル)が、水の流れに乗って葉まで届けられます。流れる水がいわば「配達トラック」の役目を果たしているのです。水が上へと流れなければ、養分も土の近くにとどまったままになってしまいます。

また、水が水蒸気に変わるときには、まわりの熱を奪っていきます(気化熱)。汗が乾くときに体がひんやりするのと同じ原理です。そのため、厳しい直射日光を浴びても葉の温度が上がりすぎず、森の中に入ると外よりも涼しく感じられます。

もう少し詳しく言えば、植物はこの水分の放出を絶えず天秤にかけながら生きています。水が足りなくなると気孔を閉じて蒸散を抑えますが、そうすると光合成に必要な二酸化炭素も入ってこなくなってしまいます。まさに「栄養を作ること」と「水分の干からびを防ぐこと」の綱渡りをしているのです。

よくある誤解

誤解

根が下から水をぐいぐい押し上げて、木のてっぺんまで届けている。

事実

根が水を押し上げる力(根圧)もありますが、それだけでは足りません。背の高い木では、葉から水が蒸発することで生まれる「上から引っ張り上げる力」のほうがはるかに強力に働いています。

誤解

蒸散は、植物にとって水を無駄に失うだけの損な現象だ。

事実

水が上へ流れる道を作ることで土の中の養分を葉まで運び、水が蒸発する際に熱を奪って葉の温度上昇を防ぐという、大切な役目を担っています。

日常で出会う場面

  1. 真夏の木陰がパラソルの下よりも涼しく感じられること。

  2. 鉢植えの植物にビニール袋をかぶせておくと、葉から出た水分で袋の内側に水滴がつくこと。

つまり ひとことで

葉から水が水蒸気として逃げていき、その隙間を埋めようとする力が根の水を木のてっぺんまで引き上げます。

作成 2025-01-30 更新 2026-10-12 検証 2026-10-12