定義
大企業や高所得層の税金を減らし、規制を緩めれば、経済成長の恵みが下へ流れ落ち、中小企業や低所得層までまんべんなく恩恵を受けられる、という経済上の主張(仮説)です。水が高いところから低いところへ自然に落ちる様子にたとえて、この名前がつきました。
シャンパングラスがあふれたら、下のグラスも満たされる?
結婚式やパーティーで、高く積み上げられたシャンパンタワーを見たことがありますよね。いちばん上のグラスにドボドボと注ぐと、満杯になってあふれた瞬間、すぐ下のグラスたちへ液体が自然に流れ落ちていきます。
経済でも、大企業や富裕層にまずお金が回るようにすれば、似たことが起きると考えられました。大企業が法人税(企業が稼いだ所得にかかる税金)の負担を減らして余裕ができれば、新しい技術の研究や工場の建設を進め、より多くの人を雇うはずだからです。
仕事が増えれば、働く人たちの財布も潤い、近所のお店でもっと買い物をするようになります。つまり、企業の成長が社会全体へ流れ落ちていくというのが、トリクルダウン理論の核心です。
こうしてお金が上から下へよどみなく巡れば、政府が貧しい人を直接助けなくても国全体の経済規模が大きくなり、みんなが豊かになる、と信じられていました。
水が下へ流れなかったら?
ところが現実には、シャンパングラスの水が下へすっきり流れ落ちないことが多くありました。てっぺんのグラスがあふれる代わりに、グラス自体がどんどん大きくなって、水をずっと中にためこんでいるようなものです。
税金を減らしてもらっても、企業が国内に新しい工場を建てたり人を雇ったりせず、お金を内部にためこむケースがありました。生産コストの安い海外の工場へ移ったり、機械の自動化にだけお金を使ったりすることもありました。
高所得層も、増えた所得でモノを買って市場にお金を回すより、不動産や金融商品に資金を寝かせておくことが多い、という指摘があります。そうなると、お金が底まで届かず、いちばん上の層にとどまってしまう現象が起きます。
複数の研究では、富裕層への減税後も成長や雇用ははっきり増えないまま、上位層の所得シェアだけが大きくなり、貧富の差がかえって広がったという結果が出ています。
もう少し正確に言うと
「トリクルダウン(trickle-down)」という言葉は、1930年代のアメリカですでに批判的な表現として使われていました。1980年代にはロナルド・レーガン政権の「サプライサイド経済学」に基づく減税政策を批判する言葉として広く知られるようになりました。その政策は、税金を減らして企業の生産意欲を高めれば国全体の経済が活気づく、という考え方でした。
しかし時間がたつにつれ、国際機関も数十年分の実際の統計を調べるようになりました。国際通貨基金(IMF)は2015年の報告書で、上位20%の富裕層の所得シェアが大きくなると、その後の経済成長率はむしろ低くなると分析しました。経済協力開発機構(OECD)も2014年に、所得格差が拡大すると成長が鈍化するという分析を発表しています。
その理由としてよく挙げられるのが、富裕層はお金が増えても消費を大きくは増やさないのに対し、庶民はお金が入るとすぐ生活費に回す傾向がある、という点です。
今日では減税の効果をめぐって意見が分かれており、庶民や中間層の所得を増やして下から消費を生み出そうというトリクルアップ(ボトムアップ型)の主張も、あわせて取り上げられています。
よくある誤解
トリクルダウン理論は、科学的に完全に証明された自然法則である。
トリクルダウン理論は、経済政策の一つの仮説にすぎません。時代の状況や国の経済構造によって、お金が下へ流れず二極化だけが進むケースも多く、今も議論が熱く続いています。
日常で出会う場面
大企業の法人税を引き下げて、新しい工場への投資や大規模な採用を促す政策です。
富裕層の減税の恩恵が消費につながらず、不動産や金融資産に寝かされたままになっている現象です。
つまり ひとことで
大企業や富裕層をまず豊かにして、その恩恵を社会全体に行き渡らせようという政策ですが、現実にはお金が下へなかなか流れず、議論が続いています。