経済

逆選択

見た目だけで買う中古車市場に、なぜ故障した「ポンコツ車」ばかりがあふれてしまうのかを示す経済現象です。

定義

取引のとき、見た目だけでは中が壊れているかどうかは分かりにくいものです。取引の前に相手についての情報が足りないせいで、結局、質の悪い商品や危険な取引相手ばかりを選んでしまう現象です。売る人と買う人のあいだの情報の差によって起こります。その結果、良いものは市場を去り、質の悪いものが主に残るという問題が生まれます。1970年に経済学者ジョージ・アカロフが、中古車市場を例に説明しました。

中古車市場には、なぜ欠陥品ばかり残るのでしょうか

中古車を買いに市場へ出かけたと想像してみましょう。車を売る人は、自分の車の事故歴や隠れた故障を手に取るようによく知っていますが、買う人には見た目はちゃんとして見えるので、本当の状態を知るすべがありません。

買う人は、だまされてぼったくられるのではないかと不安になります。そこで最上級の車の値段をすんなりとは出せず、「良い車と欠陥車の中間くらいの値段」しか言えなくなります。見た目では両者を見分ける方法がないからです。

こうなると、大事に手入れしてきた良い車の持ち主たちは、悔しくて車を売らず、市場を去ってしまいます。結局、市場には、平均価格でもいいからさっさと売りさばきたい故障した欠陥品(レモン)ばかりがぎっしり残ることになります。

スマートフォンの破損保険が抱えるジレンマ

スマートフォンの破損保険の会社と加入者のあいだでも、まったく同じことが起こります。加入者は、自分が普段スマートフォンをどれだけ丁寧に扱っているのか、それとも一日に何度も落とすうっかり者なのか、自分の生活習慣をとてもよく知っています。

ところが保険会社は、お客さんの普段の行動をいちいち見張ることはできません。そこで、すべてのお客さんに同じ平均の保険料をかけることになります。すると、普段からスマートフォンを大切にして絶対に落とさない人たちは、「画面を割ることもないのに、どうしてこんなに高いお金を払わなきゃいけないの?」と言って、保険の加入をあきらめます。

結局、普段からスマートフォンを乱暴に使ったりよく落としたりする人たちだけが、ぞろぞろと保険に加入することになります。そのせいで保険会社の修理費の支出は雪だるま式にふくらみ、保険料がさらに上がって、おとなしい利用者はますます離れていくという悪循環の泥沼にはまってしまいます。

もう少し正確に言うと:契約の前と後の違い

逆選択の話をするとき、多くの人が「モラルハザード(道徳的にだらけてしまう現象)」と混同しがちです。どちらも情報が片方にだけ偏っているために生じる問題ですが、起こるタイミングがまったく違います。

逆選択は、契約のハンコを押す「前」に情報が隠されていることで生じる問題です。隠れた本当の姿のせいで、最初から不利な相手やものを選んでしまうのです。一方、モラルハザードは、契約を結んだ「後」に態度が急に変わり、ものを乱暴に扱ったり、約束を軽く考えたりする行動のことをいいます。

そこで市場では、逆選択を防ぐためにさまざまな安全装置がつくられます。中古車市場の無料保証修理書のように、情報をもつ側が潔白を証明する「シグナリング」、あるいは通信会社が保険加入の前に画面の無傷の状態を写真に撮って提出させる「スクリーニング(選別)」がそれにあたります。

よくある誤解

誤解

逆選択とモラルハザードは、名前が違うだけで同じ現象である。

事実

逆選択は、契約を結ぶ「前」に、相手の隠れた情報のせいで不利な選択をしてしまうことです。モラルハザードは、契約を結んだ「後」に、注意を払わなくなったりなまけたりするといった行動の変化のことです。

日常で出会う場面

  1. フリマサイトで出品者の誠実さが分からないため、優良な出品者は去り、詐欺まがいの出品ばかりが増える現象

  2. スマートフォンをよく落として画面を割る利用者ばかりが、破損保険に集中して加入する現象

つまり ひとことで

取引の前に情報が片方にだけ偏っているため、本当に優れた商品や人は市場を去り、質の悪い相手ばかりが選ばれてしまう現象です。

この概念が登場するストーリー

作成 2025-08-22 更新 2026-10-17 検証 2026-10-17