定義
韓国において、実労働時間に応じて残業手当を毎回計算する代わりに、基本給と各種手当を区別せず総額だけを決めたり、時間外・深夜・休日労働手当をあらかじめ定額で定めて実労働時間にかかわらず支給する賃金契約の方式です。一定時間分の手当をあらかじめ組み込みつつ超過分は精算する「固定残業代(固定OT)契約」と似ていますが、厳密には区別されます。
なぜ月給に残業手当をあらかじめ組み込むのでしょうか?
スマホの料金プランには、毎月使えるデータ量が最初から定額で含まれていますよね。包括賃金制もこれとよく似ており、働くたびに手当を細かく計算するのではなく、決められたセット料金のようにまとめて処理する仕組みです。法律に直接明文化された制度ではなく、外回りや出張が多く実労働時間を正確に把握しにくい職種の慣行を、韓国の裁判所の判例が例外的に認めてきた経緯があります。
毎回何時何分まで働いたかを証明し確認し合うのは労使双方にとって手間がかかるため、事前に合意を交わします。毎月平均20時間ほど残業すると見なし、それに見合う手当をあらかじめ月給に上乗せして支給する、という約束です。会社側にとっては毎月の労務コストを安定して予測でき、手当計算にかかる事務コストも削減できます。
その結果、基本給とは別にあらかじめ定めた固定残業手当がひとつのパッケージのように給与明細に記載されます。労働者にとっても、毎月安定して一定の手当が確保できるという点では、一見便利な仕組みのように受け止められることもあります。
「サービス残業(タダ働き残業)」の温床になった理由
問題は、この制度が本来の趣旨から外れ、出退勤時間が明確に把握できる事務職やITエンジニア職などにまで無秩序に広がってしまったことです。労働時間を十分に計測できるにもかかわらず、会社が働いた分に見合う正当な対価を払わないための脱法的な手段として悪用され始めました。
例えば、契約書上は月20時間分の残業手当だけを固定で組み込んでおきながら、実際には毎月40時間以上も残業させる、といった具合です。そして「包括賃金契約に残業手当はすべて含まれている」として、追加の手当の支払いを拒否します。こうして、実際に働いた時間よりもはるかに少ない賃金しか支払われないタダ働き残業(サービス残業)が職場の至る所に定着してしまいました。
会社側から見れば、従業員が徹夜で働こうが休日に出勤しようが追加のコストが発生しないため、過剰な業務を押し付けやすくなります。結果として従業員の休息権が侵害され、長時間労働が蔓延するという深刻な社会問題を引き起こしました。
もう少し正確に言うと
もう少し正確に言えば、包括賃金契約を結んだからといって、会社が従業員を際限なくタダ働きさせてよい権利を得るわけではありません。超過分の精算を前提とした固定残業(固定OT)契約であれば、実労働時間に基づいて計算した法定手当が固定額を上回った場合、その差額を精算しなければなりません。また、包括賃金の合意があっても、韓国の「週52時間労働制」といった労働時間の上限規制はそのまま適用されます。
もし固定残業代として月20時間分の手当が定められているのに、今月実際には35時間残業したとすれば、差の15時間分に対する時間外労働手当は別途精算して支払う義務があります。労働時間が客観的に算定できるケースであれば、こうした未払い差額は賃金未払い(不払い残業)として争うことができます。
さらに韓国大法院(最高裁判所に相当)の判例でも、労働時間を把握できる事務職などにおいては、包括賃金約定が法定基準を下回る範囲では無効であり、実労働時間に基づく手当との差額を支払わなければならないと判断されています。働いた時間に比例して正当な対価を支払うことが、労働基準法の基本原則だからです。一方で、本当に労働時間の把握が極めて困難な職種において有効に結ばれた包括賃金契約であれば、追加精算が発生しない場合もあります。近年では包括賃金制の濫用を厳しく制限しようとする韓国政府のガイドライン制定や法改正の議論も続いています。
よくある誤解
包括賃金契約を結ぶと、どれだけ残業しても会社には追加手当を支払う義務が一切ない。
包括賃金の合意があっても、労働時間の上限規制はそのまま適用されます。労働時間を算定できる職種や超過精算型の固定残業契約であれば、実労働時間に基づいた法定手当との差額を受け取ることができます。
日常で出会う場面
固定残業代(固定OT)の形式で、基本給250万ウォン(約28万円)に時間外労働20時間分の手当約36万ウォン(通常の時給約1.2万ウォン×1.5×20時間)を合わせ、毎月約286万ウォン(約32万円)を受け取る雇用契約です。
外回りが多く、労働時間を分単位で正確に記録することが難しい営業職などで、毎月定額の手当をまとめて支給するケースです。
つまり ひとことで
残業手当を月給にあらかじめ含めて定額支給する仕組みですが、労働時間を把握できる職種であれば、実労働時間に基づく法定手当に満たない差額を請求して受け取ることができます。