定義
一国の経済が本来無理なく耐えられる生産能力を超えてしまい、物価や賃金が急激に高騰し、株式や不動産などの資産にバブルが生じる危険な状態を指します。一見すると雇用にあふれ、商売も繁盛して非常に豊かに見えますが、実際は経済システム全体に負荷がかかりすぎて故障寸前になっている過負荷局面なのです。
熱を持ったスマートフォンが停止する直前の瞬間
最新のスマートフォンで、高画質な3Dゲームを何時間も休みなくプレイしている場面を想像してみてください。最初は画面の動きも滑らかで、グラフィックも美しく、ゲームがとても快適に動いているように感じられます。
しかし、時間が経つにつれてスマホ本体は触るのがつらいほど熱くなっていきます。内部の部品が耐えられる限界を超えてしまったからです。そのまま熱を逃がせないでいると、やがて画面がカクつき始め、最終的には安全のために勝手に電源が落ちてしまいます。
経済もこれとまったく同じ仕組みで動いています。市場にお金が潤沢に出回り、人々が先を争ってお金を使い始めると、企業は大喜びで工場を24時間フル稼働させます。仕事があふれ、ボーナスも弾むため、誰もが景気は最高だと歓喜しますが、実際には耐えきれない過負荷状態へと突入しているのです。
モノの値段や資産価格が果てしなく高騰する理由
モノを買いたい人があふれているのに、工場や従業員の数には限りがあるため、これ以上生産を増やすことができません。モノが手に入りにくくなると、お店側はこぞって値札を書き換え、値上げを始めます。
企業も人手を確保しようと、互いにより高い給与を提示して奪い合います。しかし、こうして上がった人件費は、そのまま商品の価格へと転嫁されます。物価が上がるからさらなる賃上げを求め、賃金が上がるから物価がまた上がる、という悪循環が始まってしまうのです。
さらに、お金が借りやすく価格はこれからも上がり続けるという期待が広がると、お金の価値が下がることを恐れた人々までが株式や不動産へと殺到します。無理に借金をして家や土地を買い漁ることで資産市場に巨大なバブルが膨らみ、経済はわずかなショックでも割れやすいガラス細工のようになってしまいます。
もう少し正確に言うと:潜在成長率と中央銀行のブレーキ
もう少し正確に言うと、経済学では労働や資本といった生産要素と技術水準をもとに、インフレを加速させずに達成できる最大の成長ペースを「潜在成長率」と呼びます。そして、物価の安定を保ちながら持続できる生産水準を「潜在GDP」といいます。工場に無理をさせれば一時的にこの水準を超えることはできますが、実際の生産(実質GDP)が潜在GDPを大きく上回った状態こそが、まさに景気過熱です。実際の成長率が潜在成長率を上回り続けると、そのギャップは広がっていきます。ただし、不況からの回復期のように生産がまだ潜在GDPを下回っている段階なら、成長のスピードが速くても過熱とは言えません。
これは、体力の限界を超えているのに走り続けているマラソン選手のようなものです。この状態を長く続ければ、いつかは倒れてしまいますよね。
そこで中央銀行は過熱を察知すると、急いで政策金利を引き上げて市場の資金を引き締める金融引き締め政策を行います。無理にスピードを落として、経済というエンジンの熱を冷ますブレーキの役目を果たすのです。このブレーキを適切なタイミングで踏めないと、バブルが崩壊して深刻な不況に陥るリスクが高まります。かといってブレーキを急激に踏みすぎても景気が急速に冷え込むハードランディングを招くおそれがあるため、中央銀行は慎重に速度を調整しています。
よくある誤解
景気が過熱するのはそれだけ好景気だということだから、無条件に良いことだ。
経済システムの生産限界を超えた異常な状態です。放置すれば急激なインフレや資産バブルが発生し、そのバブルがはじけた際に過酷な経済危機を迎えるリスクが高まります。
日常で出会う場面
工場が昼夜24時間休まず稼働しても注文に追いつかず、商品の価格が連日高騰しているとき。
誰もが借金をしてまで不動産や株式を買いあさり、資産価格が理不尽な水準にまで跳ね上がっている時期。
つまり ひとことで
景気過熱とは、生産能力を超える過剰な需要によって物価や賃金が急騰し、資産バブルも発生しやすくなる、経済に過度な負荷がかかった危険な状態のことです。