定義
景気後退とは、一国の生産、消費、投資、雇用など、経済活動全般が通常数か月にわたって明らかに縮小する現象をいいます。市場にお金が回らなくなり、企業も家計も財布のひもを固く締めることで、経済全体の活力が大きく失われた状態です。
なぜお金の巡りが止まってしまうのでしょうか?
血液が全身をくまなく巡ることで健康が保たれるように、経済もお金が人々の間を絶え間なく循環してこそ健全でいられます。街のパン屋さんでパンを買えば、そのパン屋の店主が美容院へ行き、美容院のオーナーが子どもの塾代を支払うように、お金は人と人をつないで巡っていきます。
しかし、将来への不安が強まると、人々は出費を抑えて財布のひもを固く締めるようになります。みんなが一斉に消費を減らせば、飲食店や商店の売上は一気に落ち込み、商品が売れなくなった企業は工場の稼働を抑えたり、新規採用を見送ったりします。
給料が減ったり職を失ったりした人々はさらに支出を切り詰めるようになり、結果として消費の冷え込みと雇用の減少という悪循環に陥ってしまいます。このように、経済を回していた歯車が軋み、社会全体の取引が凍りついてしまう現象こそが景気後退です。
もう少し詳しく:景気後退を判定する基準
単に「最近景気が悪い気がする」という肌感覚だけで景気後退と呼ばれるわけではありません。経済学では、国内で生み出されたすべての付加価値の合計である国内総生産(GDP)を重要な指標とします。
一般には、物価変動の影響を取り除いた実質国内総生産が2四半期連続でマイナス成長を記録した状態を「テクニカル・リセッション(技術的景気後退)」と呼びます。これは公的な厳密な定義というよりは広く使われる目安ですが、経済規模そのものが半年間にわたって縮小し続けた明確なサインとなるためです。
より厳密には、景気の公式な判定機関はGDPの数値だけで判断するわけではありません。失業率がどれほど急激に跳ね上がったか、工場の稼働率や小売り・卸売りの販売額がどれだけ落ち込んだか、国民の実質所得が実際に目減りしたかなどを総合的に分析して最終的な判定を下します。
景気後退はなぜ起こり、どう乗り越えるのか?
景気後退が訪れる理由はさまざまです。急騰する物価を抑え込もうと急激な利上げを行ったときに起きることもあれば、予期せぬ戦争や感染症の流行によって世界的な貿易ルートが寸断されたことで発生することもあります。
景気後退が始まると、政府や中央銀行が救援役として動き出します。中央銀行は政策金利を引き下げて借入のハードルを下げ、政府は道路や鉄道などの公共事業に予算を投じたり、給付金を支給したりして市場に直接お金を行き渡らせようとします。
経済にも好況と不況が交互に巡ってきます。ただし季節の移り変わりとは違って、その時期や長さは一定ではなく、事前に予測することは簡単ではありません。景気後退は雇用が失われ所得が減る過酷な時期ですが、経済全体に膨らんでいたバブル(泡)を洗い流す「調整プロセス」になるという見方もあります。その一方で、不況が残す傷跡のほうがはるかに大きいという研究もあり、議論が分かれるところです。
よくある誤解
景気後退は、株価が暴落したその日から始まる。
株価は投資家の心理によって1日でも激しく乱高下しますが、景気後退は実際の生産や雇用、所得が落ち込む深さ・広がり・期間を総合して判定されます。通常は数か月以上続きますが、2020年のように期間は短くても打撃があまりに甚大だった場合には景気後退と認定されることもあります。
日常で出会う場面
2008年の世界金融危機(リーマン・ショック)の際、世界中で工場の稼働が止まり失業率が急上昇した時期です。
2020年の新型コロナウイルス感染拡大により外出や旅行が制限され、飲食店や航空会社の売上が激減した時期です。
つまり ひとことで
景気後退とは、消費・生産・雇用が同時に落ち込み、国全体の経済の活力が長期間にわたって冷え込む現象のことです。