定義
ある国の経済的な居住者が、一定期間の生産活動に参加して得た所得の総額です。国境の内外を問わず、居住者が得た賃金、利子、配当、企業利潤をすべて合算します。さらに物価や交易条件の変化まで反映した実質国民総所得は、国民の実質的な購買力を示す代表的な経済指標です。
「居住者基準」と「領土基準」の違い
工場で作り出されたモノの量と、家族が家の内外で稼いできた収入の総額は一致しません。国内総生産(GDP)が国内の領土内で生み出されたすべての生産物の価値を測る指標であるのに対し、国民総所得(GNI)は国内の経済主体が実際に稼いだ所得の大きさを測ります。
ここでいう「国民」を分ける基準は、実はパスポート(国籍)ではありません。その国に生活基盤を置く居住者かどうかが基準になります。例えば、日本に1年以上暮らして働く外国人エンジニアの給与は日本の国民総所得に含まれますが、ヨーロッパのクラブに移籍して現地で暮らす日本人選手の年俸は含まれません。国籍で判断しようとすると、この二人の扱いが逆になってしまいます。
このように領土という国境の境界線を越え、実質的にその国の経済に根を下ろして1年以上暮らす人々が稼いだ分をすべて足し合わせたものこそが、国民総所得なのです。
工場でたくさんモノを売っても懐が潤わない理由
一生懸命にお米を作り、去年の2倍も収穫できたと想像してみてください。収穫量そのものは大幅に増えましたが、米の価格が半分に暴落し、肥料代や燃料費が何倍にも跳ね上がったとしたら、農家の暮らし向きはかえって苦しくなるはずです。
国全体の経済もこれとまったく同じです。国内総生産(GDP)が増加し、自動車や半導体を海外へたくさん輸出したとしても、輸入する原油の価格が高騰し、輸出品の価格が下がれば実質的に損をしてしまいます。経済学ではこのような状況を「交易条件が悪化した」と呼びます。
国民総所得のうち実質国民総所得は、こうした価格の変動までしっかり反映します。モノをどれだけ多く作ったかだけでなく、海外との取引で生まれた損得を反映させることで、国民の実質的な購買力がどれだけ高まったのかを正確に示してくれるのです。
もう少し詳しく:実質的な懐事情を決める計算式
少し専門的に説明すると、国民総所得は国内総生産(GDP)に海外から得た所得を調整して算出します。居住者が海外で稼いだ所得から、非居住者(外国人投資家など)へ支払った所得を差し引いた差額を、経済学では海外からの純要素所得と呼びます。
海外に進出した国内企業が本国へ送金する配当金や、海外株式の配当、外国債券の利子などが増えると、この金額は大きくなります。ただし、株価の上昇による値上がり益はここに含まれません。逆に、国内企業が海外の投資家へ支払う配当や利子のほうが多ければ、その分だけ国民総所得は国内総生産を下回ることになります。
さらに、輸出入価格の変動に伴う交易利得や損失を加えることで、国民の実質的な購買力を表す実質国民総所得が完成します。国民総所得は税金を支払う前の所得であり、企業や政府の取り分も含まれているため、家計が実際に手にするお金はその一部です。このように国民総所得は、国境の内側で作られたモノだけでなく、居住者が世界中から稼ぎ出した所得の大きさを捉えています。
よくある誤解
国民総所得は、その国の国籍を持つすべての国民の所得を足し合わせたものである。
国民総所得の基準は国籍ではなく、あくまで居住者です。一般に1年以上滞在し、経済活動の拠点を置く人を居住者とみなします。ただし、留学生や外交官などは海外に長期間滞在していても、例外的に自国の居住者として扱われます。
国内総生産(GDP)が増えれば、国民の実質所得である国民総所得(GNI)も必ず同じように増える。
モノをたくさん生産しても、輸入原材料の価格が高騰して輸出品の価格が下がると(交易条件の悪化)、生産量が増えていても国民が手にする実質的な購買力(実質GNI)は目減りすることがあります。
日常で出会う場面
日本のIT企業で1年以上研究員として働いている外国人エンジニアの給与は、日本の国民総所得に含まれます。
海外のプロサッカークラブに所属し、現地で長期滞在して生活している日本人選手の年俸は、日本の国民総所得からは除外されます。
日本企業が海外の現地工場で生産した製品は現地国の国内総生産(GDP)に計上されますが、そこで得られた利益のうち日本の本社へ配当などとして還元される分は、日本の国民総所得(GNI)に含まれます。
つまり ひとことで
国民総所得(GNI)は国籍ではなく居住者を基準に、その国の経済主体が稼いだ所得を合算した指標であり、実質国民総所得はその所得の実質的な購買力を表します。