定義
現在の状態が、それまでにどんな過程を経てきたかによって決まる性質のことです。最初に定着したやり方に合わせて道具や習慣が積み重なると、後からはその方式を選ぶというより引き継がざるを得なくなります。より優れた選択肢があったかどうかとは切り離して考える必要があります。
最初に敷かれた線路の幅が、次を決めました
鉄道の2本のレールの間隔を「軌間(ゲージ)」と呼びます。最初に鉄道を敷いたとき、この幅は選べたいくつかの候補の中から一つに決まりました。
一度幅が決まると、その上を走る車両も、次に延伸してつなぐ区間も、すべてその幅に合わせて作られます。年月が経つと、変えなければならないのは線路1本だけではなくなります。線路と車両と車両基地(整備施設)のすべてが連動しているからです。
そのため、現在でも国境を越えると線路の幅が異なる区間が残っています。国境で乗客が列車を乗り換えたり、台車(車輪の幅)を付け替えて通過したりする場所があります。
最初にできた足跡が、そのまま道になったわけです。今その幅を使っている理由を、性能の良し悪しだけで説明するのは困難です。最初にそう敷かれ、その後に作られたものすべてがそれに合わせてきたからです。
なぜ最初に定着した側が生き残るのでしょうか
先に定着したやり方には、時間が経つほど勢いがつきます。その方式に合わせた製品が増え、それを扱える人も増えていきます。使う人が増えるほど、その方式の利便性も高まります。
さらに、こうした規格は全員が一斉に変えてこそ得をするものです。自分一人だけ別の方式に移っても、周囲と噛み合わずに損をするだけです。そのため、より優れた方式が登場しても、最初に乗り換える人はなかなか現れません。
ここで混同しやすい似た言葉があります。ロックイン効果はある個人や組織が他へ移行しにくくなった状態を指し、経路依存性はどのような過程を経てきたかが現在のあり方を決定づけるという性質を指します。 一方は現在の「身動きが取れない状態」を語り、もう一方は「その状態がどのように形作られたか」を語っています。
標準(スタンダード)とも次元が異なります。技術標準は規格を揃えるという約束事であり、経路依存性はその約束事がどのような経緯をたどって現在の形になったのかを捉える視点です。
少し正確に言うと:残ったからといって劣っているとは限りません
経路依存性は、現在の状態が良いか悪いかを判定する言葉ではありません。 どんな道をたどってきたかが現在を決めるという観察にすぎません。最初に定着した側が現在でも優れた選択である場合もあれば、そうでない場合もあります。どちらであるかは事例ごとに個別に検証しなければわかりません。
キーボードの配列(QWERTY配列など)は、この文脈でよく例に挙げられます。より効率的な配列があったのに、先に普及した配列に負けたという説明ですが、この話には今なお議論があります。のちにデータを再検証した研究者からは、両者の差は言われているほど大きくないという反論が出されました。そのため、この例は「より優れたものが淘汰された」という点まで実証された話ではありません。
検証すべき事柄が2つに分かれるということです。「どのような道をたどってきたか」を示すことと、「より良い道があった」と主張することは別の議論です。後者については事例ごとに根拠を示す必要があります。
従来のやり方を漫然と続けることを、よく「慣性」と呼びます。慣性は変えずに続ける様子全般を指しますが、経路依存性はどの分岐路でどちらを選んだかが、現在選べる選択肢を狭めてしまったという点にまで踏み込みます。 山道も最初は1人の足跡から始まりますが、道として定着するのは後から歩いた人が多かったからなのです。
よくある誤解
経路依存性があるということは、今使っている方式のほうが劣っているという意味だ。
どのような道をたどってきたかが現在を決定づけるという観察です。最初に定着した側が現在でも良い選択である場合もあればそうでない場合もあり、どちらかは事例ごとに確認する必要があります。
経路依存性とロックイン効果は同じ意味だ。
ロックイン効果は個人や組織が他に移りにくくなった状態を指します。経路依存性は、その状態がどのような過程を経て作られたのかを指します。
日常で出会う場面
国ごとに鉄道の線路幅(軌間)が異なるため、国境で列車を乗り換えたり車輪の幅を付け替えたりして通過する区間が残っていること。
複数の国が特定の標準子午線(グリニッジ子午線など)を基準に時刻や経度を測り始めて以来、他の子午線に変更しようという議論が現実味を失ったこと。
つまり ひとことで
現在のあり方がどのような歴史的経緯を経てきたかによって決まる性質のことであり、だからといって現在のやり方が劣っているとは限りません。