定義
報復関税とは、相手国が不当な関税や規制によって自国の輸出品に損害を与えた際、それに対抗して相手国からの輸入品に高い税金を課してやり返す措置のことです。被った損害と同じだけの痛みを相手にも与えることで、不当な貿易措置を撤回させようと圧力をかける手段として用いられます。
やられたらやり返す「目には目を、歯には歯を」
友達とボードゲームをしていて、相手が急に理不尽なマイルールを作ってこちらのコマを奪っていったと想像してみてください。こちらも負けじと、相手のコマを奪い返す特別ルールを作って応戦したくなりますよね。
貿易の世界でも、どこかの国が一方的に高い関税をかけてくれば、被害を受けた国も黙ってはいません。相手国がこちらの輸出品に重い関税をかけて価格競争力を奪えば、国内の工場は製品が売れなくなって大損害を被ってしまいます。
そこで政府は、相手国から輸入する製品にも同じように関税を上乗せして価格をつり上げます。これこそが、対抗措置として圧力をかける報復関税です。
この措置は、単なる腹いせではありません。相手国の輸出企業に大きな打撃を与えることで、相手国政府に不当な措置を撤回させるための交渉カードとして機能するのです。
正確に言うと:勝手にやり返していいわけではありません
国同士の意地の張り合いに見えても、感情に任せて好きな品目を選び、手当たり次第に関税を課していいわけではありません。国際社会には世界貿易機関(WTO)をはじめとする審判役の組織や、共有された貿易ルールが存在するからです。
より正確に言えば、WTO体制における代表的な正式ルートは、紛争解決手続きを経て承認を得ることです。相手国が協定に違反して自国に与えた損害を仲介手続きによって算定し、その被害額の範囲内でのみ相手国の輸入品に追加関税を課す許可を得ます。このほか、セーフガード(緊急輸入制限)措置への対抗や、自由貿易協定(FTA)独自の紛争手続きなど、別の根拠を掲げるケースもあります。ただし、2019年末からWTOの上級委員会が機能停止に陥っており、この手続きが十分に機能していないという指摘もあります。
もし承認も得ずに力任せの一方的な報復を仕掛ければ、泥沼の貿易戦争へと発展する危険が高まります。
報復関税を課す際は、自国の受ける痛手を最小限に抑えつつ相手国への圧力を最大化できるよう、対象品目をピンポイントで狙い撃ちにするケースが一般的です。例えば、相手国内で政治的に敏感な地域の農産物や名産品などが、格好の標的としてよく選ばれます。
とばっちりを受けるのは、結局双方の消費者
報復関税は一見すると痛快な仕返しのように思えますが、実際には両国に深い傷跡を残す危険な手段です。高い関税が上乗せされた輸入品は、国内の店頭での販売価格が上がらざるを得ないからです。
例えば相手国の農産物に報復関税を課せば、その食材を輸入して使う飲食店や一般消費者の生活必需品の価格がたちまち跳ね上がります。相手国の企業を狙って振り下ろした拳が、巡り巡って自国の国民の財布に打撃を与える結末になってしまうのです。
双方が税金をつり上げ合って争えば、世界的な貿易量が縮小し、景気減速を招きます。そのため多くの経済学者は、報復関税を長期的に維持するべきものではなく、相手の貿易障壁を取り払わせるための交渉上の圧力手段と位置づけています。
よくある誤解
報復関税をかければ、先制攻撃を仕掛けた相手国だけが一方的に損をする。
報復関税が上乗せされた輸入品の価格が上がるため、自国の消費者も高い買い物を強いられ、結果として双方の国民が経済的負担を背負うことになります。
日常で出会う場面
2018年に米国が輸入鉄鋼に25%の関税を課した際、EUが米国産バーボンウイスキーなどに25%の報復関税を課して対抗した事例があります。
航空機への補助金問題を巡って対立した国同士が、相手国のワインやチーズといった代表的な消費財に追加関税を課して圧力を強めたこともあります。
つまり ひとことで
相手国の不当な関税攻撃に対抗し、輸入品の関税を引き上げてやり返すことで、交渉を有利に進めるための対抗手段です。