定義
世界貿易機関(WTO)は、世界の国々が物やサービスを売り買いするときに守るべき貿易ルールを決め、もめごとが起きたときに判断を下す国際機関です。すべての国が公平で自由に取引できるよう支える、世界の貿易の審判役を担っています。
ルールのない競技場は大混乱になります
もしサッカーの試合に審判もいなければ、タックルのルールもなかったら、どうなるでしょうか。力の強いチームが好き放題に荒っぽい反則を繰り返し、競技場はあっという間にめちゃくちゃになるはずです。
国と国との取引も同じです。共通のルールがなかった時代には、力の強い国が他国の物に莫大な税金(関税)をかけたり、輸入を止めたりして、自国の企業だけを守る保護貿易主義を思うままに押し進めていました。相手が関税を上げれば、こちらも報復関税で打ち返し、世界の貿易が凍りつくこともありました。
1930年代には、こうした関税の報復合戦が大恐慌をさらに深くしたと言われています。そこで第二次世界大戦後の1948年に「関税及び貿易に関する一般協定(GATT)」が発効し、これを発展させて、1995年に貿易の約束を見守る正式な国際機関として発足したのが世界貿易機関です。
差別のない取引と公正な判断
世界貿易機関が掲げる最も大事な原則は、「差別のない公平な取引」です。ある国に関税を下げるという有利な待遇を与えたら、特別な例外がない限り、ほかのすべての加盟国にも同じ待遇を分け与えなければなりません。これを最恵国待遇の原則と呼びます。
外国の商品が国境を越えて国内市場に入ってきたあとも、差別してはいけません。国内企業を助けるという名目で、外国産の商品にだけ不当に重い規制や検査をかけることを防いでいるのです。
もしある国が不当な補助金を出したり約束を破ったりして被害が出たら、被害を受けた国は世界貿易機関の裁判の場に訴えを起こせます。専門の審判役が言い分を整理し、ルールを破った国に対して正当な報復措置をとれるよう、公正な判断を下してくれます。
もう少し正確に言うと
もう少し正確に言うと、世界貿易機関は各国の法律を好きなように書き換えられる全能の世界政府ではありません。判断を下すことはできますが、自前の軍隊や警察を送ってルールを力ずくで実行させるだけの物理的な力はありません。
また、新しい貿易ルールを一つ作るときも、加盟国全体の全会一致の合意を目指すため、意思決定がとても遅いという限界があります。技術が急速に変わり、電子商取引や環境問題が重要になっても、新しい世界共通の規定をすぐに通すのが難しい理由です。
2019年末からは、アメリカが上級委員の任命を阻んだため、最終審の役割を果たしていた上級委員会が機能しなくなり、紛争解決の機能は大きく弱まっています。それでも世界貿易機関は、経済力の弱い国も大国の横暴に立ち向かい、対等なルールのもとで話し合える、最も大切な貿易の安全装置です。
よくある誤解
世界貿易機関は、加盟国の法律を好きなように作り変えられる世界政府だ。
世界貿易機関は、加盟国同士の合意によってのみ動く組織です。ルールに違反した国に是正を勧告したり、相手国による正当な報復関税を承認したりすることはできますが、個々の国の法律を直接、強制的に変える権限はありません。
日常で出会う場面
ある国が外国産の鉄鋼にだけ不当に高い関税をかけたとき、被害を受けた輸出国が世界貿易機関に提訴して判断を求めます。
世界貿易機関に新しく加盟した国は、ほかの加盟国が受けていた低い関税の恩恵を、差別されることなく同じように受けられるようになります。
つまり ひとことで
世界貿易機関は、国同士の貿易で反則を防ぎ、差別のない公平な取引が行われるよう支える、世界の貿易の審判役です。