経済

囚人のジレンマ

それぞれが自分の得だけを考えたせいで、みんなで協力したときより悪い成績表をもらってしまう、グループ課題のような状況です。

  • 約4分
  • 図 1点
  • 2026-10-13 検証

定義

二人がそれぞれ、相手の選択とは関係なく自分にいちばん有利な選択をした結果、二人とも協力したときより悪い結果になってしまう状況のことです。ゲーム理論(選択と結果を研究する学問)で、個人にとって合理的な選択が、集団全体ではなぜ非合理な結果を生むのかを示す代表的なモデルです。

自分だけ助かろうと自白すると何が起こるか

警察に捕まった共犯の二人が、別々の部屋で取り調べを受けている場面を思い浮かべてください。警察はそれぞれに甘い取引を持ちかけます。相手の罪を先に話せば、あなたはすぐに釈放し、黙っていた相手だけを懲役10年にする、という条件です。もし二人とも仲間を裏切らずに黙っていれば、証拠が足りないので軽い罪で懲役1年ずつですみます。

ただし、二人とも相手を裏切って自白すると、二人とも懲役5年になります。このとき、それぞれの部屋にいる犯人の頭の中は複雑です。相手が黙っているときに自分が自白すれば0年(釈放)ですし、相手が自白した場合でも、自分も自白すれば10年ではなく5年ですみます。つまり、相手がどちらを選んでも、自白するほうが常に有利に見えるのです。

結局、二人ともいちばん賢いと信じた自白を選びます。その結果、二人とも黙って1年で出られたはずの最良の結果を逃し、そろって懲役5年という重い罰を受けることになります。

日常や経済で出会うジレンマ

このジレンマは、刑務所の外の私たちの日常でも毎日のように起きています。代表的な例が、大手の塾二つによる授業料の値引き競争や、過剰な広告費の競い合いです。二つの塾がどちらも広告を減らせば、莫大な費用を節約して、一緒に大きな利益を出せます。ところが、相手が広告を減らしているときに自分たちだけ広告を増やせば、生徒を総取りできるという誘惑にかられます。

逆に、相手が広告を猛烈に打ってくるときに自分たちだけ何もしなければ、塾を畳むことになりかねません。だから、しぶしぶ対抗して広告を打つことになります。結局、二つの塾とも天文学的な広告費をつぎ込み、生徒数は変わらないという損をします。国同士の終わりのない軍拡競争や、企業同士の消耗戦(出血競争)も、同じ原理で起きる現象です。

環境汚染の問題も同じです。すべての工場が排水の浄化設備をつければ川がきれいになって全員が得をしますが、他の工場が設備をつけているときにこっそり排水を流せば、お金を節約できます。みんなが費用を惜しんだ結果、川が汚れて全員が被害を受けることになります。

もう少し正確にいうと

経済学では、各人が自分の利益だけを考えてたどり着いた安定した状態をナッシュ均衡(Nash Equilibrium)と呼びます。囚人のジレンマで、二人とも自白を選ぶ状況がまさにこのナッシュ均衡にあたります。相手が選択を変えない限り、自分だけ選択を変えても、かえって悪い結果になるだけなので、この均衡から抜け出すのは難しいのです。

ここで生まれる逆説は、個人の合理性が集団の合理性につながらないという点です。二人とも自白した結果(5年ずつ)より、二人にとってよい結果(二人とも黙秘で1年ずつ)があることははっきりしているのに、たとえ約束を交わしても、それを守らせる手段がなければ、協力したときより損をする均衡から抜け出せません。

では、この罠から永遠に抜け出せないのでしょうか。ゲームが一度きりでは終わらず、ずっと繰り返される関係なら、答えは変わります。裏切った相手には次の回で同じように報復し、協力した相手には協力で返すというルール(しっぺ返し戦略、ティット・フォー・タット)が働けば、協力が保たれる可能性があります。政治学者アクセルロッドのコンピューター大会では、この単純な戦略がいちばん高い得点を取りました。ただし、これからも会い続けるという見通しが十分にあることが条件です。

よくある誤解

誤解

囚人たちが愚かだから、二人とも損をする選択をしたのだ。

事実

二人の囚人は、それぞれの立場でいちばん賢く合理的な計算をしました。個人にとって最も有利な選択が集まっても、集団全体では悪い結果になりうることを示すのが、このジレンマの核心です。

日常で出会う場面

  1. 相手より目立とうと無理に広告費を増やした結果、どちらも利益が減ってしまう企業同士の過熱競争です。

  2. お互いに軍隊を減らせば平和ですが、相手に裏切られるのを恐れて、われ先に武器を買い込む軍拡競争です。

つまり ひとことで

相手がどう出ても裏切るほうが有利なので、それぞれが最善の選択をするのに、結局は全員が協力したときより悪い結果になってしまう矛盾です。

作成 2026-06-06 更新 2026-10-13 検証 2026-10-13