定義
銀行が危ないという噂が広まると、先に預金を引き出そうと窓口に行列ができます。資本流出は、それと似たことが国単位で起こる現象です。国内に入っていた投資資金や預金が、より安全で条件のよい場所を求めて国境の外へ出ていく流れを指します。
お金はなぜ国境を越えて動くのでしょう?
水が低いところへ流れるように、お金は条件のよいところへ流れます。ある国の金利が高かったり、企業がよく稼ぎそうだったりすると、世界中の投資資金がそちらへ集まってきます。逆に条件が悪くなると、入ってきたお金は向きを変えて外へ出ていきます。
向きを変えるきっかけは、大きく三つあります。一つめは、他の国が金利を上げて、国内より条件がよくなるときです。二つめは、為替が揺れて、手元のお金の価値が下がりそうなとき、三つめは、政治や制度が不安で、財産を守りにくそうなときです。
ここに、互いにまねをする心理が重なります。ある投資家が売って出ていくと、残った人も手遅れになる前に出ようとします。そのため資本流出には、一方向に殺到して加速していく性質があります。
入ってくるときは比較的ならされて入ってきたお金も、出ていくときは数日で一気に抜けることがあります。この速度の差が、資本流出への対処を難しくしています。
出ていくお金は、なぜ怖いのでしょう?
お金が出ていくとき、まず揺らぐのは為替レートです。投資家が自国通貨を売ってドルを買って出ていくので、ドルを求める人が増えます。ドルの値段が上がると、輸入品の物価がそれにつられて上がり、石油や原材料を買ってくるコストも膨らみます。
政府や中央銀行は、ドルの値上がりを食い止めようとして、ためておいた外貨を放出したり、金利を引き上げたりします。金利を上げれば、お金が国内にとどまる理由はできますが、ローンを使っている家計や企業の負担は重くなります。
ここから悪循環が生まれることもあります。金利の負担で景気が冷え込むと、国の状況がいっそう悪く見え、それを見た投資家がまたお金を引き揚げます。出ていく速さそのものが新たな理由になる輪ができてしまうわけです。
だから多くの国は、ふだんから外貨をためておき、いざというときにお互いにお金を貸し合うよう、あらかじめ約束しておきます。
もう少し正確に言うと
もう少し正確に言うと、資本流出という言葉は、それ自体が事故を意味するものではありません。お金は常に入ったり出たりしていて、統計では入ってきたお金と出ていったお金を比べて、どちらが大きいかを見ます。国内企業が海外に工場を建てるためにお金を送り出すのも、流出として計上されます。
問題になるのは、大きさよりも速度と性格です。何年もかけた工場投資はゆっくり動きますが、株式や債券にほんの短い間とどまるお金は、一夜にして向きを変えます。短くとどまるお金の割合が大きいほど、揺れも大きくなります。
税金を逃れたり、監視の目をのがれたりするために財産をひそかに移す流れは、別に資本逃避と呼ばれます。記録にほとんど残らないため、国の懐具合を把握しにくくします。英語の capital flight は、出ていくお金全体をひとまとめに指すこともありますが、狭い意味ではこの資本逃避のほうを指します。
ですから、同じ「出ていくお金」でも、何がどんな速度で出ていくのかを分けて見る必要があります。
よくある誤解
外国人が国内の株を売ると、その瞬間にそのまま資本流出になる。
統計では、売った時点で証券投資の資金が出ていったものとして計上されます。ただし、売ったお金を自国通貨の預金として国内にそのまま置いておけば、その分は別の項目で再び入ってきたものとして計上されるため、国全体で見ると、自国通貨を外貨に替えて外へ送ったときに初めて、お金が実際に出ていきます。
資本流出は、常に国の経済が壊れつつあるというサインだ。
国内企業が海外の工場や会社を買うためにお金を送り出すのも、流出に含まれます。心配の種になるのは、短い期間に一斉に出ていく場合です。
日常で出会う場面
他の国の中央銀行が金利を大きく引き上げたため、国内の債券を売ってその国へ移っていく外国人の投資資金です。
国内企業が海外に工場を建てるために、本社の資金を現地法人へ送るケースも、統計上は流出として計上されます。
つまり ひとことで
国内にあったお金が、より安全で条件のよい場所を求めて国境の外へ出ていく流れで、一気に殺到すると為替や景気を揺さぶります。