経済

流動性の罠

おもちゃに結んだひもは、引くことはできても押すことはできない——その事実によく似た状態です。

  • 約3分
  • 図 2点
  • 2026-09-02 検証

定義

中央銀行が金利を0の近くまで下げても、人も企業もお金を使わず、借りようともしない状態です。世の中にお金はたっぷりあるのに、通帳や金庫にそのまま溜まってしまい、金利を下げるという手立てが力を失ってしまいます。

ひもは引けても押せません

机の上のおもちゃにひもを結んで、片方の端を手に握ってみましょう。ひもをそっと引くと、おもちゃはころころと寄ってきます。では反対に、ひもを前へ押すとどうなるでしょう。おもちゃはその場から動かず、ひもだけがくにゃくにゃと折れ曲がってしまいます。

国のお金の流れを握る中央銀行が使う金利も、このひもによく似ています。景気が熱くなりすぎたときは金利を上げて、みんながお金を借りにくくします。こちらはひもを引く仕事なので、力がわりあいよく伝わります。

逆に景気が冷え込むと金利を下げます。お金を借りる値段を安くして、早く使ってくださいと勧めるわけです。ところがこちらはひもを押す仕事なので、力がなかなか向こう側へ渡りません。

いくら押してもおもちゃがびくともしないように、金利を底まで下げても財布が開かないときがあります。こうした状態を流動性の罠と呼びます。

お金は増えたのに、なぜ回らないのでしょう

押せないひもを、もう一度思い浮かべてみましょう。問題は手の力が弱いからではなく、ひもが力を渡せない状態にあることです。人々の気持ちが、まさにそのたるんだひもと同じなのです。

ものの値段がこれから下がりそうだと思えば、今日買うつもりだったものを来月へ先延ばしします。仕事が不安なら、利息が低くても借金を背負う気にはなれません。だから下がった金利が消費につながりません。

お金を貸す銀行の側も事情は似ています。返してもらえないかもしれない状況では、貸し出しを減らして安全なところにお金を寝かせておきます。結局、世の中に出回ったお金は増えたのに、回らずに溜まったままです。

金利をもっと下げたくても、すでに0の近くまで来ていて、下げる余地はほとんど残っていません。手に握ったひもが、すっかり伸びきってしまったようなものです。

もう少し正確に言うと

最後にもう一度、ひもの話に戻ってみましょう。ひもが押せないからといって、ひもが消えてしまったわけではありません。ただ、ぴんと張らないので力が渡らないだけです。

流動性の罠も、お金がなくなった状態を指すのではありません。お金は通帳にも金庫にもそのままあるのに、使われないので力を失っている状態です。ひもが手元にたっぷり残っていても、張っていなければ役に立たないのと同じです。

そこで、こういうときは金利ではない別の手を使います。中央銀行が債券を買い入れてお金を直接流し込んだり、政府が自ら支出を増やして仕事をつくったりします。押す代わりに、向こう側から引いてあげるやり方というわけです。

ただし、この話がいつでも当てはまるわけではありません。景気が生きているときはひもがぴんと張っているので、金利を下げれば消費も融資もそれなりについてきます。また、今が罠にはまっているのかどうかは、かなり時間がたってからようやくはっきりする場合が多いのです。

よくある誤解

誤解

流動性の罠は、世の中にお金が足りないから起きる現象だ。

事実

お金はむしろたっぷり供給されている場合が多いのです。そのお金が使われも借りられもせず、一か所に溜まったままだという点が問題なのです。

誤解

金利をもっと下げさえすれば、いつかは抜け出せる。

事実

金利がすでに0の近くなら、下げる余地はほとんどありません。おまけに、値段がこれから下がりそうだという見通しが残っているかぎり、金利を下げても財布はなかなか開きません。

日常で出会う場面

  1. 利息が底まで下がっているのに、家計が借り入れを増やさず、預金にお金を積み上げるばかりという状況です。

  2. 値段がもっと下がりそうだからと、家電や自動車を買うつもりだった人が購入を先延ばしし続ける状況です。

つまり ひとことで

金利を底まで下げても、人がお金を使いも借りもせず、お金が溜まったまま動かなくなってしまう状態です。

作成 2024-11-13 更新 2025-07-04 検証 2026-09-02