定義
金融機関同士はお金を貸し借りしながら、網の目のように細かくつながり合っています。そのため、たった1社が破綻しただけでもその衝撃が次々と波及し、市場全体が機能不全に陥ることがあります。このように1社の問題にとどまらず、つながり合ったシステム全体が共倒れしてしまう危険を「システミック・リスク」と呼びます。
コンビニの前で生まれた5人の「お金の鎖」
お昼休みに友達5人でコンビニに行ったとしましょう。財布を忘れたユウトがナオにお金を借りました。ナオも手持ちの現金が足りず、ダイキに借りました。こうして5人が「明日お小遣いをもらったら返すね」という約束ひとつで、一本の鎖のように結ばれました。
ところが翌日、ユウトはお小遣いをもらえませんでした。ユウトが返せないため、ナオもダイキに返すお金がありません。ダイキもまたリョウから借りたお金を返せず、リョウもマサトに返せなくなってしまいました。思わぬ事情があったのは先頭の1人だけなのに、鎖で結ばれた5人全員が困り果ててしまったのです。
銀行や金融機関がつくるネットワークも、この鎖とよく似ています。お互いにお金を貸し借りしたり債権をやり取りしたりして、網の目のようにつながっています。そのため、1社の経営破綻はその会社だけの問題では終わりません。
つながりが多ければ多いほど鎖は長くなり、衝撃が伝わるルートも増えていきます。システミック・リスクとは、このように張り巡らされたつながりを伝って波及していく危険を指す言葉なのです。
お金よりも噂のほうが早く走る
鎖の話にもう一度戻ってみましょう。ユウトがお金を返せなかったという噂がクラス中に広まったらどうなるでしょうか? 貸し借りの輪に入っていなかった同じクラスのミナトまで、「自分も返してもらえなくなるのでは?」と誰かにお金を貸すのをやめてしまいます。実際には何の損もしていないのに、まず財布を固く閉ざしてしまうのです。
金融市場でもまったく同じ光景が広がります。ある会社が危ないという噂が流れると、経営が健全な会社にさえお金を貸そうとする相手が減ってしまいます。お金の行き交っていた通り道が突然狭まり、問題のなかった会社まで資金繰りに行き詰まるのです。
預金者が一斉に窓口へ押し寄せる「取り付け騒ぎ(バンクラン)」も、こうして起こります。「自分のお金を引き出せなくなるかもしれない」という不安そのものが、本物の危機を引き寄せてしまうのです。そのため、この危険は鎖を伝って広がっていく感染症のように動きます。
最初に倒れた会社がそれほど大きな規模でなくても、結果が甚大になることがあります。恐怖に駆られた人々の行動が、衝撃を何倍にも膨らませてしまうからです。
もう少し正確に言うと
コンビニの鎖の例えに最後にもう一度戻ってみましょう。ユウト1人がお金を返せないことと、5人全員が巻き込まれて倒れてしまうことは別の話です。前者は個人の事情ですが、後者は鎖という仕組みそのものが機能しなくなる事態です。
金融の世界でも、この2つを明確に区別します。1つの会社が倒産することは、その会社と取引していた人々の損失だけで済む場合もあります。システミック・リスクという言葉は、つながり合った市場全体が共倒れしてストップしてしまう危険を指すときに使います。
そのため各国では、規模が大きくネットワークが広い主要な金融機関に対して、より厚い安全網を義務付けています。損失に耐えられる自己資本を多めに積み立てさせたり、危機的状況を想定したストレステスト(健全性審査)を定期的に課したりするのです。鎖の1コマが切れても、隣のコマまで引きずり倒されないようにするための仕組みです。
ただし、この例えが当てはまるのは互いが密接につながり合っている場合です。他社との取引がほとんどない小さな会社が破綻したとしても、システミック・リスクとは呼びません。もっとも、直接の貸し借りがなくても、複数の会社が同じ投資先に一斉に投資していた場合などは、その投資先が揺らいだときに揃って危機に陥ることもあります。
よくある誤解
規模の大きな金融機関が倒産したときだけに起きるリスクだ。
規模と同じくらい「つながり」も重要です。それほど大きくない会社であっても、多くの機関と細かく取引していれば、その破綻が鎖を伝って広範囲に波及することがあります。
自分が預けている銀行が健全であれば、自分には影響がない。
他行が揺らいでいるというニュースだけでも、市場のお金の流れが滞ってしまいます。健全だった銀行でも、他から資金を調達できなくなれば一緒に苦境に陥る可能性があります。
日常で出会う場面
大手金融機関の1社が経営難に陥ったことで、他の銀行同士もお金を貸し出すのをためらい、市場全体が凍りついてしまうような状況です。
ある金融機関が危ないという噂が流れただけで、経営に問題のない隣の銀行の窓口にまで預金を引き出そうとする人々が殺到するケースです。
つまり ひとことで
クモの巣のようにつながり合った金融ネットワークにおいて、1社の破綻が次々と連鎖し、市場全体が機能不全に陥るリスクのことです。